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RMTサバイバー~今日の宿代を稼ぐ俺と、人助けで戦う使い魔~
RMTサバイバー~今日の宿代を稼ぐ俺と、人助けで戦う使い魔~
Author: 雨音休

第1話 詰み

Author: 雨音休
last update publish date: 2026-04-10 13:59:39

 それは、どこにでもある小さな“シアワセ”だった。

 朝。寝息を立てているユウマの肩に、妻が優しく手を置く。

「ユウマ、起きて起きて」

「むにゃむにゃ、もっと寝てたい」

「駄目。会社に行く時間よ」

「ぐぐー、ん、朝?」

 瞳を開く。目の前には妻の優しい笑顔があった。ユウマはダブルベッドから上半身を起こし、右手を口元に掲げて大あくびをする。

「ふわあ」

「あら、大きなあくびですこと」

「朝食は?」

「出来ています。着替えて、ダイニングへ来てくださいな」

「ああ、分かった」

 クスッと笑って妻が部屋を出て行く。スリッパの足音が遠ざかって行った。

 ユウマはベッドから出て支度をする。ワイシャツにスーツのズボンを履いた。ネクタイと上着を持ってダイニングへと歩く。テーブルの席にはすでにユウマの娘、ウミが座っていた。小学生になったばかりのお転婆少女である。ユウマを指さしてウミが指摘した。

「お父さん! お髭生えてるー」

「今から剃るんだ」

「早く剃ってきて」

「分かったよ」

 背広の上着とネクタイを椅子の背もたれにかけて、ユウマはユニットへ入る。シェイビングクリームをつけて髭を剃る。二十代の若い顔立ちが鏡に映った。

 蛇口をひねって水を出し、顔を洗う。冷たい感触が肌に心地よい。

 それからテーブルに戻り、椅子に座って朝食となった。妻が料理を並べてくれる。

「いっただっきまーす」

 ウミの賑やかな声である。

「いただきます」

「はいどうぞ」

 三人で両手を合わせた。

 穏やかな朝だった。

 日だまりのような光景。

 けれど、違和感を覚える。

(昨日……何をしていた?)

 ウミがウインナーをパリパリとかじる。それからお味噌汁をすすってご飯を口に運んだ。

 隣では妻が穏やかな瞳をたたえており、ハシで目玉焼きを割る。

「ウミ、ゆっくり食べなさいね」

「ママはーい」

 ユウマも味噌汁をすすった。

 部屋の掛け時計を見る。ユウマは焦って声を上げた。

「もうこんな時間だ!」

 仕事に行かなければいけない。急いで食べ出す。

「そんなに急いで食べたら、喉につっかえますよ」

 妻が諭すようにつぶやく。

 手早く朝食を終えた。妻が用意してくれていた黒いカバンと上着を持って席を立つ。

「それじゃあ行ってくるよ」

「貴方、ネクタイがまだです」

 妻が立ち上がり、その青いネクタイを手に取って首に巻いてくれた。慣れた手つきで結んでくれる。何気ないその行動に溢れるような幸せを感じた。

「じゃあ、行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい」

「パパー、行ってらっしゃい!」

 家族に見送られて、ユウマはダイニングの扉をくぐった。玄関で靴を履いて外へと出る。春風が吹いた。桜の花びらが風に運ばれて玄関をチラチラと舞う。太陽の光が眩しかった。

 何も心配のない暮らし。

 それが答えだと思っていた。

 いつまでもこの幸せを守って生きていきたい。

 そこで、視界がぐにゃりと歪んだ。

 まるでユウマの幸福を否定するかのように。

 夢だったのだ。

「お客様、ヴァルが足りません」

 隣室から起こった声に、はっとしてユウマは顔を上げた。

 黒いマットの床。目の前にはデスクトップとVR機器がある。

 そうだ。

 ここはログネストだった。蒲田区にあるネットカフェでありそのマットルームである。

 全てを思い出した。

 ユウマに家族などいない。

 そして昨日、会社をクビになったのである。

 データ入力オペレーターの職務だった。正確さと速さを求めるその仕事は性格に合っていた。しかし作業効率を求めすぎたせいで、上司とユウマは衝突してばかりの日々。その上、非効率な作業はできる限りお断りしていた。そしたら上司に、肩を叩かれてしまった。

「君、明日から来なくていいよ」

 ――え?

 マジですか。

 だけど、

 分かってた。

(俺、融通利かないですよね)

 派遣会社が用意してくれた寮はもう使えない。

 彼女もいない。

 いた歴も無い。

 こんな時に頼れるような友達も無い。

 未来は無い。

(悲しいことを言うな)

 世界に一人ぼっちである。

 金が無いと叫びたい。いや、昨日夜空に叫んだのだった。

 朝だ。

 ユウマに残された選択肢は三つ。派遣会社、ハローワーク、ネット求人。

 財布に入っているのは一万円札一枚と小銭が少し。これが全財産である。別に、野良猫にキャビアを餌としてあげていた訳じゃない。度重なるストレスが衝動食いへとユウマを走らせたのだった。

 とりあえず立ち上がった。コーヒーでも汲んでこよう。そう思い、革靴を履いてルームを出る。ログネストの通路を歩いた。玄関へと行き、ドリンクバーの機械でコップに黒い液体を注ぐ。

 ふと後ろから声がかかった。

「お客様」

 ユウマは振り向く。女性店員が右手を掲げていた。どうしたのだろう? 彼はカウンターへと歩み寄る。

 この時ユウマは、まだ知らない。

 ここが、自分の戦場になることを。

 まだ二十代そこそこであろう女性店員の顔が、

 おとぎ話に出てくる魔法使いのように見えたのは、

 一体どうしてだったのだろう。

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Comments (1)
goodnovel comment avatar
輪廻
夢オチから始まる……私も高頻度で明晰夢見てるから見てて辛くなってくる(´;ω;`)
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